RPA導入の鍵を握るPoCとは?検証のポイントも解説

2019年12月9日

RPA導入時における検証のタイトルイメージ

RPAの導入の検証に有効とされるPoCとは、どのような手法かご存知でしょうか。 RPAを初めて導入する場合など、RPAの本格導入前にまず試験的な導入・運用を行ってデータを収集して、業務効率化への有効性や費用対効果、本格導入に向けた課題などを検証する必要があります。PoCはその検証方法の一つとして、RPA導入時には欠かせません。

では、そもそもPoCとは何なのか、なぜRPAの導入にPoCが必要なのか、本記事で考察してみましょう。 同時に、RPA導入におけるPoCの進め方に沿って、実施・検証ポイントや効果測定についても分かりやすく解説します。

PoCとは?

PoCはProof of Conceptの略で、日本語では「概念検証」と訳します。新しい技術の導入前あるいは製品販売前などの段階において、それらのコンセプト(概念)や原理の有効性・実現性などを検証します。PoCの代表例が医薬品の臨床試験です。医薬品業界ではPoCは臨床試験の一環で実施され、少数の患者への投薬データを収集して効果や安全性を確認します。 想定通りの結果が得られたときには「PoCを取得した」、「PoCを得た」などと表現します。 その他、映画業界などでもコンパクトな短編映画を最初に放映して反響を検証するなど、PoCを活用している業界は様々です。

PoCの目的

PoCの主な目的は二つあります。一つ目は、新技術の導入是非を判断することです。 新技術のコンセプトに効果があるか、コンセプトに用いる技術が実現可能なものかを検証し、投資効果の有無を見極めます。 もう一つの実施目的が、コンセプトの課題点や技術上の改善点の確認です。

なお、PoCの検証結果によって新技術のコンセプトに投資効果が見込めないと判断された場合は、開発・導入自体が中止される可能性もあります。
そのまま開発を進めていた場合、それだけコストもかかりますし、市場に出せば大きなトラブルにもつながります。あらかじめPoCを実施しておくことで、リスクを低減することができるのです。

PoCとプロトタイプの違い

PoCはしばしばプロトタイプ(試験導入・試作品)と混同されるため、プロトタイプについて簡単に説明します。プロトタイプは、PoCによってコンセプトの有効性や実現性が立証されたうえで、本番導入や実用化を視野に入れて機能などの検証を行う段階です。 PoCは、コンセプトそのものの検証になりますので、PoCでゴーサインが出て初めてプロトタイプに移行して、試験導入や試作品の製作に入ることが可能になります。

PoCの流れ

PoCは以下の流れで実施します。

  • PoCの要件定義
  • コンセプトを検証するための製品・ソリューションの選定
  • 設計・開発・実装
  • 試験運用でコンセプトの検証・課題の抽出
    • ※検証結果が得られるまで1~4を繰り返します。
  • 4の結果に基づき、導入可否の判断
  • 導入すべきなら本格導入へ(導入すべきでないならPoCの終了)
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RPAにおけるPoCの必要性

RPAもほかのITプロジェクト同様、本格導入前のPoCを実施すべきです。RPAで多くの業務時間の削減につながったという成功事例はよく耳にしますが、他社がRPA導入で業務効率化やコスト削減に成功していても、自社で実現できるとは限りません。 また、そもそもRPAが自社の抱える課題を解決する手段として最適であるかも定かではないのです。 PoCはこれらの疑問に答える形でRPAの有効性(工数・業務時間・人件費の削減率)や技術的な実現性を立証し、スムーズで効果的なRPA導入につなげることができるのです。

事例から見るPoCの有効性

RPAの導入を視野に入れてPoCを実施した事例として、横浜市の取り組みをご紹介します。

 横浜市は2020年の新市庁舎への移転をきっかけに、職員の働き方を見直そうと取り組んでおり、各課の業務量を調査しました。 その結果、一部の管理業務において業務効率化の必要性があることが分かりました。 業務フローの見直しを行ったところ、新たな業務フローでも効率化の余地が残されていることが判明します。 そこでさらなる業務効率化を図るために、RPAで業務を自動化したら処理時間をどれだけ削減できるか、PoCで検証することにしました。

これらの経緯を踏まえ、横浜市は以下の項目を目的に定めてPoCを実施しました。

  • 既存システムと連携しながら対象業務でRPA化が可能か?
  • 見直し後の新業務フローにRPAを活用して処理時間をさらに削減可能か?
  • さらに効率化できる工程は洗い出せるか?
  • 将来RPAの他業務への展開は可能か、など

PoCにはRPAによって処理時間の大幅な削減が見込まれ、なおかつ作業フローもほかの業務へスライドできることを前提に、旅費支給事務と物品購入事務が選ばれます。 3カ月間のPoCの結果、現行の業務フローとRPA導入後とでは、いずれの業務でも処理時間の大幅な短縮が可能であると実証されました。

  • 旅費支給事務(旅費精算の1業務)
  • 50.6%(6,517.9時間)の削減効果
  • 物品購入事務(直接配送品・個別調達・第二課依頼の3業務)
  • 最大87.7%(4,509.1時間)の削減効果

PoCによって業務効率化の効果が認められただけでなく、今後の市役所内でのRPA展開の可能性や、導入時の課題も明確になり、横浜市はPoCに一定の成果があったとして、 将来的には住民サービスに関わる業務へのRPA導入にもつながる、という見解を示しています。
この事例にあるように、まず現状の課題に対してRPAがどのように効果を発揮するのか検証するという視点と、将来的にどのように拡大していけるのかという視点の両方で検証を行うことが大切です。

出典:
横浜市総務局・株式会社イーセクター 『「内部管理業務等の事務の効率化」におけるICT活用(RPA)に関する調査研究報告書』:https://www.city.yokohama.lg.jp/city-info/gyosei-kansa/shigoto/ict/rpa_naibukanri.files/0001_20190412.pdf

RPA導入是非を決めるPoCの実施ポイント

RPA導入におけるPoCのポイント解説のタイトルイメージ

横浜市の事例はPoCの理想的なケースと言えるでしょう。すべてのPoCがこのように上手くいくとは限らず、PoCの段階でつまずいてRPAの導入を見送らざるを得ないケースもあります。 そこでここからは、PoCを円滑に進め、RPAの試験的な導入を適正に検証・評価するためのポイントを解説します。

検証項目の優先順位付け

RPA導入時のPoCの検証ポイントには以下のような優先順位があります。

  • 効果の検証
    • RPAの導入コンセプトが業務上・経営上の課題を解決して、実際に効果を発揮するかどうか。
  • 技術的な実現性の検証
    • コンセプトで用いる技術(この場合RPA)が実現可能なものかどうか。
  • 現実性の検証
    • PoCを通して顕在化された技術的な課題への解決策が、現実的かどうか。

まず「1.効果の検証」を優先的に行い、次に「2.技術的な実現性の検証」と「3.現実性の検証」へ落とし込むことが重要です。 たとえ技術的な実現性がPoCで立証されても、1に該当するコンセプトの戦略的な有効性が認められなければ、RPAに投資効果があるとは言えません。必ず1から優先的に検証してください。

PoCプロジェクトチームの発足

プロジェクトチームは、RPAの開発・管理担当者、対象業務の担当者や部門責任者、情報システム担当者、RPAベンダーの担当者を中心に構成します。

RPA化する業務の洗い出しやコンセプトの実証には、業務を把握している現場の担当者の参加が不可欠です。 また、業務全体における個々の作業の位置付けや他部門の業務との連携を踏まえ、必要に応じてPoCを実施する部門以外の担当者にも参加を要請します。

PoCの目標設定

RPAを導入して「何%のコストを削減する」「対象業務の処理時間を何%短縮する」など、具体的な数値目標を掲げます。目標設定へのアプローチは、現状把握と課題の抽出です。 RPAの導入を予定している業務部門を対象に、どのようなフローで作業を行っており、現状ではその作業に何時間かかっているか、などヒアリングを行います。

ヒアリングの目的は、あくまでも業務プロセスや作業フローの把握で、現場のニーズを最優先するためではありません。 実現可能性も検証要素の一つであるため、ヒアリングは現場のニーズを汲み取りつつ、どの業務のどの作業をRPA化すべきか、検討するための材料にとどめます。

PoC実施範囲の設定

要件定義のフェーズに入ると、既存業務の作業手順・ルールや操作ログを洗い出して、どの業務がRPA化に適しているかを選別します。その上でPoCを実施する業務範囲を定めます。 PoCは小規模かつ本番導入に近い環境での実施が望ましいため、本格導入を予定している部門の中でPoCの範囲を設定すると良いでしょう。

ここで重要なのは、RPAの導入時と同様に作業のフローやルールをマニュアル化することです。また、ロボットのエラー処理やシステム障害発生時など、イレギュラーへの対応方法も定義し、文書化しておきましょう。

フローの文書化には「Dojo(ドージョー)」のような自動マニュアル作成ソフトがオススメです。 対象のフローをパソコン上で操作するだけで画面と操作内容が同時に取得でき、そのままWord®やExcel®︎形式で出力することができます。

自動マニュアル作成ソフト『Dojo』

PoCの評価

PoCの実施と検証が終わったら、効果測定を必ず行います。PoCはRPAの導入是非を判断することを目的に実施するため、PoC結果の評価とフィードバックは厳格にすべきです。 具体的には、RPAの試験的な導入によって削減された稼働時間や、人件費やそのほかのコスト削減率などを数値化します。

最後に、PoCは一度の実施で完結するものではなく、PDCAサイクルで回すのが基本です。検証途中で見つかった課題は再検証し、RPAに組み込む指示や条件も必要に応じて修正を重ねます。 業務プロセス自体に問題がある場合は業務改善を、技術面での課題があれば解決の可否と解決策の提案までを行います。

RPA導入前のPoCにも活用できるRPA導入支援ツール

今回はPoCとは何か、RPA導入時のPoCの必要性や、PoCを実施する上でのポイントをご紹介しました。 ここまでの内容を通して、PoCはRPA導入の有効性だけでなく、導入の是非までをも決める重要なステップであることをお分かりいただけたでしょうか。

特に要件定義のフェーズでは、PoCを行う業務の選定と実施範囲の設定が鍵となります。 最初のステップであるPoCに必要な業務の洗い出しや業務プロセスの可視化に役立つのが、株式会社テンダが提供する「D-Analyzer(ディーアナライザー)」です。パソコンにインストールし、一定期間普段通りに業務を行うだけで、上操作ログの収集や業務フローの分析、導入前後の効果測定まで一つのプラットフォームで低コストに実施でき、PoCの効率化を促進します。そもそもRPA化すべきなのかがわからないという方にも、業務の棚卸しができるので、オススメのツールです。

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