RPAによる業務効率化の可能性と限界

2019年12月23日

RPAによる業務効率化で定時にあがる女性

最近、RPA(Robotic Process Automation)というソリューションが大きな注目を集めています。 RPAとは、ソフトウェアロボットがパソコンを自動的に操作することで、人間が行っていたデスクワークの代わりをつとめるソリューションです。

人手不足、業務効率化、多様化する働き方への対応などは、多くの企業が抱えている課題です。これらの課題を解決できるソリューションのひとつとして、今RPAに大きな期待が寄せられています。

ですがRPAはあらゆる業務を自動化することができるというわけではなく、RPAによる業務効率化は、可能性が高いものもあれば、可能性が見こめないものもあります。ここではRPAによる業務効率化の可能性と限界、そしてRPAがもたらす業務効率化の本質を解説します。

エンジニア不在の業務効率化

人間が行っていた仕事を機械に代行させる、という試みは古くから行われてきました。時代は遡りますが、代表例は産業革命における蒸気機関でしょう。 蒸気機関というパワフルな動力を手にした人類は、さまざまな力仕事を機械に任せられるようになりました。蒸気機関が大幅な業務効率化を実現したのです。 他にも、人間が行っていた仕事を機械に代行させることで業務効率化を実現した例は、枚挙にいとまがありません。

ですが、機械による自動化には「エンジニアとの関わりが必要不可欠である」というデメリットがありました。 機械はエンジニアによる操作やメンテナンスが必要であり、エンジニアが関わらないと、業務効率化は困難だったのです。

このデメリットを力技で解決した事例もあります。世界的な投資銀行であるゴールドマンサックス社は、全社員の25%がIT部門に所属するエンジニアリング企業でもあります。IT革命によって、金融業界は大規模な変革をせまられました。

取引のスピードは高速化し、いち早く情報をつかむことが競合他社に差をつけるためのキーポイントとなりました。 ゴールドマンサックス社はこのことを早い時期から理解し、投資銀行でありながら優秀なエンジニアを豊富に抱えるという、力技と呼ぶにふさわしい戦略をとったのです。

一方、昨今注目を集めているRPAはどうでしょうか。「ロボット」と聞くと高度なプログラミング技術が必要になるとイメージするかもしれませんが、実はRPAツールを用いてソフトウェアロボットを作成するとき、プログラミングの知識は必ずしも必要ではありません。つまり、エンジニアでなくてもテクノロジーの力を借りて業務効率化を実現できるのです。

もちろん、ほとんどの場合においては、エンジニアがいたほうがより効果的な業務効率化を実現できるでしょう。 ですが、RPAツールを用いてソフトウェアロボットを作成するときになにより必要なものは、導入前の準備であり、自社の業務に対する深い知識と、RPAの可能性・限界を知っているかどうかです。

RPAによる業務効率化の可能性

RPAによる業務効率化は、主に事務作業を対象としています。RPAツールが提供するソフトウェアロボットが得意な業務は「手順が明確」かつ「反復性が高い」ものです。さらに、RPA化すべき業務は「クリエイティブな人間の思考を必要としない」ものです。

RPAが得意とする業務の典型例

顧客からの発注を電子メールで受け取り、メールの内容を社内の基幹システムに手作業で登録する、という業務があったとします。発注は毎日、予測できないタイミングで何度も発生します。 基幹システムはインターネットに繋げることができないため、メールから基幹システムへ直接データを渡すことは難しい、という条件もあります。

この業務は、発注が一日に何度も発生するため「反復性が高い」という条件を満たします。 また、社内の基幹システムに登録する情報は決まっているため「手順が明確」という条件も満たします。 さらに、定められたルールに従い、以下に正確に素早く作業を行うかが求められる業務であるため、「クリエイティブな人間の思考を必要としない」という条件も満たしています。 このような業務に対しては、RPAによる業務効率化を見こむことができます。

RPAツールが提供するソフトウェアロボットは疲れず、休まず、教えられた業務を素早く確実にこなします。人間であれば数分はかかる作業を、ソフトウェアロボットはものの数秒で済ませてしまいます。仮に、日に100件を処理しなければならない業務があるとするなら、数時間かかる業務が数分で済んでしまうことになります。 いくつかの業務をソフトウェアロボットに任せてしまえば、導入と運用に必要なコストを、効果が上回ることでしょう。

自治体のRPA導入事例は格好の検討材料

RPAは企業のみならず、自治体への導入も進んでいます。例えば東京都葛飾区は平成29年からRPAを積極的に導入しています。平成28年にマイナンバー制度の運用が始まってから、マイナンバーと他のデータを紐づける作業が新たに発生しました。

この作業は単純ですが件数が膨大なため、職員にとって負担が重いものでした。 この事態を重く見た葛飾区は業務のRPA化を検討し、小さな業務から徐々にRPA化を進めることで着実に効率化を進め、現在では作業時間を従来の6%程度まで圧縮することに成功しています。

他にも、奈良県奈良市は平成30年の5月から2ヶ月間にわたってRPA導入の実証実験を行い、効果に手ごたえを感じています。実証実験では80%もの業務効率化を実現したケースもありました。 職員が受けたインパクトも大きく、さらなる業務効率化のために職員がアクティブに行動するようになったということです。

自治体は企業に比べて事務作業の割合が多いため、RPAを導入することで大幅な業務効率化を見こめます。現在では東京都港区、石川県加賀市、茨城県など、多くの自治体がRPAを導入しており、大きな効果をあげています。

また、総務省も平成30年度に自治体におけるRPA導入の支援予算を計上しました。総務省が支援を表明したことで、前向きな検討に乗りだす自治体も増えてきました。自治体のRPA導入はこれから本格化すると見られています。 自治体におけるRPA導入の実績は、企業がRPAを導入するときの検討材料となることでしょう。

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RPAによる業務効率化の限界

限界を迎えたRPAロボット

ここまでRPAが持つ可能性を述べてきましたが、RPAはあらゆる課題を解決できる万能のソリューションというわけではありません。RPAによる業務効率化にはさまざまな限界があります。重要なことは、RPAの限界を理解し、適切に運用することです。

想定外の事態には対応できない

例えば、RPAツールが提供するソフトウェアロボットは、教えられていないことに対する「判断」ができません。先ほど例としてあげた「メールの発注情報を基幹システムに登録する業務」を考えてみましょう。 RPA化が済み、順調に稼働しています。発注の金額感は1件あたり数万円程度、大きくても数十万円程度であるとしましょう。

ここに、十億円の発注情報が投げこまれたとします。発注者が入力を誤ったか、システムの不具合などによる架空の発注か。いずれにしても明らかに「異常」な金額です。

人間が手作業で基幹システムに登録していれば「異常」な金額に気づき、そのまま入力することはせずに、なにが起きているのか判断するために情報を集めることでしょう。 ですが、RPAツールが提供するソフトウェアロボットに「異常」な金額をあらかじめ教えていない場合、ソフトウェアロボットは十億円の発注情報を迷いなくそのまま基幹システムに登録してしまいます。

このような想定外のことに対する「判断」は、現在のところ人間にしかできません。ソフトウェアロボットは事前に教えられたことを忠実に実行します。例外を事前に想定できるなら、例外に対する処理をソフトウェアロボットに教える必要があります。

例外が数えきれないほどあり、現場の担当者が臨機応変に対応しているケースが多いのであれば、そもそもソフトウェアロボットに任せることができません。 RPAが行った処理の確認や、訂正が発生してしまっては導入効果は半減します。人間の判断を多く必要とする業務は、RPAによる業務効率化が困難なのです。

費用対効果が必ず頭打ちになる

仮にRPAを導入して業務を自動化できる目処が立ったとしましょう。ですが、今度はその自動化が「業務効率化」に繋がるかどうか、ということも検討しなければなりません。言い換えるなら、RPAの導入による費用対効果がプラスになっているかどうか、判断しなければなりません。

RPAの導入にあたっては、業務担当者へヒアリングを行うなど、事前の準備にさまざまなコストが必要です。対象となる業務が大きく複雑になるほど、コストはどんどん膨らんでいきます。 一方で、RPA化によって自動化できたとして、どれだけ労働時間が削減できるのか、また削減できた時間で新たに何ができるのかという点を考えながら進めていかないと、RPA化の最大メリットは得られません。

これらの課題を回避するひとつの方法は「小さなことから始める」ということです。つまり、いきなり業務の全体をRPA化するのではなく、スモールスタートで業務の一部をRPA化するのです。対象業務が狭まれば、その分導入までのコストも抑えることができます。

人間の判断が必要なプロセスと自動的に実行できるプロセスを切りわけ、自動的に実行できるプロセスからひとつずつRPA化することで、やがては費用対効果がプラスになるビジョンが見えてくるでしょう。

ですが既存の業務の中では、いずれは効率化も頭打ちになります。人間の判断が必要なプロセスはRPA化できないため、RPA化による業務効率化には限界があるのです。極端な例え話ではありますが、すべての事務作業を無人化することは、残念ながら不可能なのです。

RPAによる業務効率化の本質

RPAの導入事例を見ると、しばしば「○○時間も労働時間を削減した」と紹介されています。たしかに、労働時間の削減は重要な指標です。RPAの導入に成功すれば、結果として定型業務に対する労働時間は削減できます。 ですが労働時間の削減という指標は、RPAによる業務効率化の本質を表現できているとはいいがたいでしょう。

RPAによる業務効率化の本質は、いままで「仕方なく」人間がやっていた業務を、ソフトウェアロボットに任せられるようになる、ということです。

RPAによる自動化がもたらした時間を使って、人間は複雑で高度な判断が求められるコア業務に集中することができます。つまり、RPAによる業務効率化の指標は、コストカットによってマイナスを減らすことだけでは不足なのです。コア業務に集中することによって、プラスを増やせているかどうかも指標に加える必要があります。

仮想知的労働者と知的労働者の役割分担

RPAツールによって作成されたソフトウェアロボットはしばしば「仮想知的労働者」と呼ばれます。一方、デスクワーカーは「仮想ではない知的労働者」です。 現代における知的労働者が本来なすべき仕事は、答えがひとつとは限らない複雑な問題を解決することです。

RPAを導入しやすいと言われている自治体の業務を考えてみましょう。自治体における職員の業務はたしかに事務作業が多くなりがちですが、職員が本当になすべき仕事は、よりよい行政サービスを住民に提供することでしょう。 この「よりよい行政サービス」にはただひとつの正解というものがありません。自治体の首長から職員にいたるまで、全員が考えなければならない複雑な問題です。

一方で実務においては、本来なすべき仕事とは別に、さまざまな雑務が発生します。書類の処理、データの転記、勤怠情報の登録、等々。これらは雑務とはいえど、おろそかにはできません。 ミスや抜け漏れがあれば、場合によってはその後の仕事に大きな影響を及ぼします。代わりに誰かが素早く正確に対応してくれるなら頼みたいと誰もが思ったものです。

RPAツールが提供するソフトウェアロボットは、まさにその「代わりの誰か」をつとめてくれる存在です。「代わりの誰か」がいれば、人間は本来なすべき仕事へ集中することができます。

つまり、RPAによる業務効率化は、人間とソフトウェアロボットが互いに協力することではじめて成立するのです。機械が得意なことは機械に。人間が得意なことは人間に。それぞれ役割を分担することで、本質的な業務効率化を実現できるでしょう。

まとめ:RPAによる業務効率化の可能性と限界

ここではRPAによる業務効率化の可能性と限界、そしてRPAがもたらす業務効率化の本質を解説しました。

RPAは、エンジニアがいなくとも事務作業の自動化、つまり業務効率化を図ることができるソリューションです。企業における導入も進んでいますが、これから注視していきたいのは自治体における導入事例や実証実験でしょう。 自治体は企業に比べて事務作業が多く、また営利を目的としないため、実証実験の場として適切であるためです。すでに多くの自治体が実務へ導入して大きな業務効率化を実現しているため、導入の検討材料となることでしょう。

一方で、RPAによる業務効率化には限界もあります。RPAツールが提供するソフトウェアロボットは、人間が行う「判断」を苦手としています。人間の判断が多く必要となる業務に対してはRPAを適用することが難しいため、RPAによる業務効率化はどこかで頭打ちになります。

RPAによる業務効率化の本質は、労働時間の短縮そのものではなく、人間が本来取り組むべき仕事へ集中できるようになる、ということです。機械が得意なことは機械が、人間が得意なことは人間が、といった形で役割を分担することにより、本質的な業務効率化を実現できるでしょう。

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