RPAの費用対効果を適切に算出するためのポイント

2020年1月21日

費用対効果のイメージ

近年、RPA(Robotic Process Automation)というソリューションに注目が集まっています。 RPAをうまく活用すれば、従来は人間が手を動かして実施せざるを得なかったデスクワークを、ソフトウェアによって自動化できます。 RPAの導入によって、残業時間の削減や人手不足の解消などを期待できます。

いっぽう、RPAは費用対効果の見通しを立てづらいため、導入に踏み切れない企業が多いようです。特に中小企業は、RPA化する対象業務の範囲にもよりますが、RPAの導入に失敗した場合のダメージが、大企業に比べて大きくなります。 少ない人数だからこそ業務の効率化を目指してRPAを導入したいのに、費用対効果がわからないから取り組めずにいる、というジレンマがあります。

逆に導入段階で、あらかじめ費用対効果を正確に算出できるようになれば、RPAの導入を前向きに考えられるようになるでしょう。 費用対効果を算出するためにRPA導入の検討を進めると、自ずと社内における「業務の棚卸し」も進みます。もし「RPAでは費用対効果がマイナスになる」と判断した場合でも、検討の途中で進んだ「業務の棚卸し」は無駄にはなりません。
むしろ費用対効果がマイナスになるのに、棚卸しなどを実施せずに導入してしまったほうが損失は大きくなるでしょう。

ここではRPA導入の費用対効果を算出するときに注目すべきポイントについて解説します。

RPAとはなにか

RPAの導入を検討するとき、精度の高い費用対効果を見積もるためには「そもそもRPAとはなにか」ということをきちんと知る必要があります。 正しい知識がなければ、正しい判断を下すことはできません。

RPAとは「手順が決まっており、1日に何度も行うパソコン作業を、人間のかわりに行ってくれる」技術やサービスです。 現代の企業活動においては、コストに占める人件費の割合が大きくなっています。RPAを導入することによって、人件費の削減が期待できます。

RPAツールは人間より素早く、正確に、休むことなく作業を行うことができます。産業用ロボットが人間のかわりに「モノ」を作るように、RPAツールは人間のかわりに「情報」を処理します。ゆえに、RPAツールで作成した処理手順を指してソフトウェアロボットとも呼びます。

RPAツールの特徴と対象業務について、もう少し詳しく解説します。

手順が決まっている業務

RPAツールで作成したソフトウェアロボットは、パソコンの画面を認識し、あらかじめ決められた手順に従って作業を行います。 言いかえると、ソフトウェアロボットは決められていない手順は実行することができません。

RPAはしばしば「定型業務に向く」と言われます。実際、その通りなのですが、人間にとっての「定型業務」と、ソフトウェアロボットにとっての「定型業務」は、しばしば食い違います。人間にとっては同じことの繰り返しに思えても、ソフトウェアロボットにとっては同じことの繰り返しではない、というわけです。

ある業務をソフトウェアロボットに任せられるかどうかを判断するコツは、業務内容のすべてを明確な言葉で書きだすことができ、書きだした業務内容を読めば、誰でも同じことができるようになるかどうか、です。

例を挙げましょう。注文書が届いたとき、会計システムに内容を入力し、顧客入金管理表にも入金状態を入力する、という業務があったとします。 注文書は1日に何枚も届きます。人間にとっては同じことの繰り返しに思える業務です。

ですが、もし注文書の形式が顧客によって違うなら、ソフトウェアロボットにとっては注文書ごとに違う処理を行わなければならない業務になります。ソフトウェアロボットにとっては同じことの繰り返しではない、というわけです。 この場合、注文書の形式を統一するか、人間とソフトウェアロボットとで担当する業務内容を分けるか、いずれかの対策が必要です。1つ1つの操作レベルにまで落とし込んで反復性があるかを判断しなければなりません。

手順が決まっている業務

1日に何度も行うような反復性の高い作業でないと、RPAを導入しても費用対効果が見こめません。人間が行うと何日もかかる業務を、数時間から数十分という短時間でこなせることが、ソフトウェアロボットの長所です。 ソフトウェアロボットは文字通り、桁が違うスピードで業務をこなします。逆に言うと、スピードを生かせなければ宝の持ち腐れになってしまいます。

こちらも例を挙げましょう。例えば、年末調整の作業は手順が決まっています。ですが、1年に1度しか行わない作業を、RPA化すべきかどうかは慎重に判断するべきでしょう。 数人から十数人ほどの小規模な企業であれば、人件費よりRPA化にかかるコストのほうが大きくなるでしょう。

もちろん、何百人、何千人という従業員が所属する大規模な企業であれば、年末調整の作業をRPA化することで人件費を削減できるでしょう。 年末調整以外の時期は、他の定型業務をRPAツールのソフトウェアロボットに任せれば十分な費用対効果を見こめることでしょう。

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RPA導入・運用のコストを算出する

費用対効果を算出するイメージ

RPA導入・運用のコストを正しく見積もることができれば、現在の業務に費やしている人件費と比べることで費用対効果を算出することができます。

RPAを導入・運用するにあたって、必要になるコストは2種類あります。直接的な費用と、人件費です。

直接的な費用は計算しやすいのですが、見落としがちなポイントもいくつかあります。RPAツールそのものの費用だけでなく、保守運用や、RPAツールが稼働するパソコンの環境などを考慮に入れる必要があります。

人件費は目に見えづらく、予測も立てづらい、という特徴があります。直接的な費用だけを考えて導入を決定してしまうと「思っていたよりも費用対効果があがらない」といった事態になりかねません。 しかも、最初に人件費を考えておかないと「なぜ費用対効果があがらないのか」ということさえわからなくなります。

ここからはRPA導入・運用の直接的な費用と人件費、それぞれの特徴について解説します。導入コストを正確に見積もることができれば、費用対効果も自然と見えてきます。

RPA導入・運用の直接的な費用

直接的な費用はRPAツールを導入し、運用するときに直接出ていく費用です。RPAツールに対して直接お金を支払うため、目に見えやすいコストです。直接的な費用は以下の3種類にわけられます。

  • ライセンス費
  • 保守運用費
  • インフラ整備費

ライセンス費は、言いかえるとRPAツールの利用費です。ほとんどのRPAツールは月額制か年額制です。ユーザーはRPAツールそのものではなく、RPAツールの使用権を購入します。

ライセンス費とは別に、保守運用を委託する費用も必要となるでしょう。ライセンス費はあくまでRPAツールの使用権を購入するための費用です。 もちろん、自社の従業員で保守運用することも将来的には可能でしょう。ですが、最初のうちはRPAツールの開発元に保守運用を依頼したほうがトラブルは少ないでしょう。

また、RPAツールを稼働させるための環境、インフラを整備する費用も計算しておいたほうがいいでしょう。多くの場合、RPAツールはパソコンを1台以上占有します。 他にも電源の確保、ネットワーク環境の整備、周辺機器の購入、などなど、こまごました費用が積み重なると、意外に大きな額となります。

RPA導入・運用の人件費

RPAを導入・運用するときには人件費もかかります。必要な人件費は以下の3種類にわけられます。

  • RPA化する業務の洗い出しにかかる人件費(コンサル費用)
  • 従業員がRPAツールの使用方法を習得する期間の人件費
  • ソフトウェアロボットを作成するときの人件費

RPA化する業務の洗い出しは、RPA化の可能性がある業務について、担当者へヒアリングを行うケースがほとんどです。 RPA導入・運用のプロジェクト担当者や外部のコンサルタントが、現場の意見を聞いてRPA化できそうな業務を検討します。 この作業は「業務の棚卸し」にもなります。ヒアリングにあたっては業務内容を言葉で表現する必要があるため、言語化した業務の内容はそのままマニュアルにすることができます。

従業員がRPAツールの使用方法を習得する期間も、導入時のコストとして計上するべきでしょう。 RPAツールはプログラミングの知識がいらない、といわれます。ですが、RPAツールでソフトウェアロボットを作る方法を覚える必要はあります。

RPAツールでソフトウェアロボットを作成するときも人件費が発生します。人間がRPA化する業務内容を検討し、作業の手順を明確にし、ソフトウェアロボットに手順を設定しなければなりません。 また、ソフトウェアロボットが意図通りに動いているかどうかも人間が検証する必要があります。

人件費を削減するために人件費がかかる、というのは変に思われるかもしれません。ですが、これらの人件費を事前に考慮しておかないと、RPAツールの運用を開始したあとに正しい費用対効果を検証することが難しくなります。 後から必要性に気づいて人件費を計算しようとしても、正確なデータを集めることは難しいでしょう。

ヒアリングの課題

ここまで述べてきた直接的な費用と人件費のうち、最も見通しが立ちにくいコストは「RPA化する業務の洗い出し」です。

まず、ヒアリングを受ける実務担当者の負担が大きくなります。実務と並行して新人教育用のマニュアルを作っているような状態ですから、予定通りに進められるとは限りません。

また、ヒアリングによって得られた意見には業務担当者の主観が含まれるため、必ずしも適切なRPA化につながる意見が得られるとは限りません。 担当者がRPA化したいと感じている業務と、実際にRPA化できる業務は、しばしば異なります。

この記事の序盤で述べましたが、人間にとっては同じことの繰り返しに思える作業でも、ソフトウェアロボットにとっては同じことの繰り返しではない、というケースはよくあります。 さらに、ヒアリングをする側が業務に詳しくないケースもよくあります。業務に詳しくないとヒアリングで得られた意見を深掘りできないため、実際にはRPAに向かない業務のRPA化を試みてしまう可能性もあります。

ヒアリングは、聞く人も聞かれる人も多くの時間を取られます。ですが、かけた時間に対してあまり大きな成果があげられないことが多いのです。

ヒアリングによる成果があがらない理由のひとつは、客観的な材料をそろえずにヒアリングを行ってしまうことです。ヒアリングの材料を得るために、タスクマイニングという手法が注目を集めています。

D-Analyzer のタスクマイニングでヒアリングの材料を

タスクマイニングとは、従業員が業務に使用している個々のパソコンの操作履歴をビッグデータとして蓄積し、ビッグデータの中からパターン化している作業内容を抽出することです。 タスクマイニングによって、ヒアリングにあたって必要となる客観的なデータが得られます。また、従業員は普段通りにパソコンを操作するだけなので、従業員の負担も少なくて済みます。

また、RPAを導入したあと、RPAを運用する間もタスクマイニングを実施することで、RPAを導入したことによる効果を数値から算出することができます。 つまり、タスクマイニングによって、費用対効果をより正確に算出できるようになるのです。

ただ、タスクマイニング「だけ」でRPA化する作業を決めるべきではありません。数値上は単調な定型業務として表れていても、実際には現場の従業員が数値に表れない判断を下している場合があるためです。 人間の判断を多く必要とする業務は、RPAには向いていません。また、タスクマイニングの結果だけで費用対効果を検証してしまうと、数値に表れにくい効果を見落としてしまいます。

タスクマイニングは、ヒアリングの材料を得たり、費用対効果の一面を計測したりする、ひとつの道具です。 RPAがうまく導入できた場合の効果は、人件費の削減にとどまりません。従業員はコア業務へ集中できるようになるため、モチベーションアップにつながるでしょう。

また、RPAによって削減できた時間を従業員が創造的な仕事にあてられるようになれば、新しい企画や新しい改善手法の開発に取り組むことができるようになるでしょう。 これらの効果は、タスクマイニングからは正確に知ることができません。

RPAの導入・運用にかかわる費用対効果の算出は、多面的に考えるべきでしょう。

まとめ:RPAの費用対効果を適切に算出するためのポイント

RPA導入の費用対効果を見積もるためには、RPAとはなにか、という本質を理解することが重要です。 RPAは「手順が明確に決まっている」および「1日に何度も行う」業務を、自動的に処理してくれるソリューションです。 どのような業務もRPAで解決できるわけではありません。向き不向きを理解して、どの業務をRPA化するべきか慎重に判断しましょう。 見切り発車でRPAを導入しても、期待していた効果を得ることは困難です。

RPAの導入の費用としては、直接的な費用と、人件費を考慮する必要があります。 特に、業務担当者へヒアリングを行うために必要な人件費は見通しを立てづらく、ヒアリングを受ける従業員の負担も重くなります。

タスクマイニングなどをうまく活用して、より効率的にRPA導入の準備を進めましょう。正確な見通しが立てば、おのずと精度よく費用対効果を見積もることもできるようになります。

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